【新スリランカ サファイア原産地 調査報告(畠健一・上根学)】
1、はじめに
アベノミクスの好影響でしょうか、少し国内宝石市場は上昇を見せ始めています。一方、世界市場に目を向けると、中国を中心として旺盛な購買力により、ダイヤモンド、ルビー、エメラルド、サファイアの市場が活況を呈しています。
ブルーサファイアのスリランカ原産地価格は、一昨年秋以降1.5~2倍に上昇しました。
需要が高まれば、高まるほど美しく加工する処理技術も進化加速し、新たな処理石も市場に出回ります。
宝石業界の信頼と安定には、天然石・処理石の判別の重要度が益々増すことでしょう。
ブルーサファイアにおいては、加熱処理はもちろん、Be加熱も原産地スリランカにおいて行われています。
現在、日本の鑑別機関の通常鑑別、特に分析鑑別は進み、一般消費者への宝石に対する信頼度を高めてくれています。
ただ、分析鑑別の鎌を握る、データベースのサンプル石の産地証明が確かであることが大前提であり、それなくして分析鑑別の信頼度は保てません。
そこで今回、スリランカ産ブルーサファイアに的をしぼり、今日現在、品質・産出量から見てスリランカを代表する4つの鉱区の鉱山に現地調査を実施しました。
今回の目的は
① 4つの鉱区のインクルージョン観察
② 今後、その原石をもとに加熱処理、Be加熱処理を実施する
③ 天然石のインクルージョンが加熱処理、Be加熱処理後、どのように変化するのか、その比較分析をする為の基礎資料として実施しました
その実験結果は、次回の宝石学会で報告致します。
その一つは、約3年前に発見された新鉱区も含まれています。4鉱区においての原石を入手し、インクルージョン観察・FTIR・蛍光分析、行い基礎資料を得たので報告します。
近年、鉱山地区においても加熱処理など処理石などの処理石が鉱区に混入されることがある。第一目的の産地証明の確立の為に、その場で研磨し天然処理の識別を実施する為に、共同研究者としてJBSの畠校長に同行してもらった。
2、スリランカを代表する4つの鉱区の位置について
スリランカを代表するブルーサファイアの鉱区は、品質・産出量から見て、現在ラトゥナプラ・パルマドゥッラ・オッカンペディア・カタラガマの4つの鉱区が上げられます。
① ラトゥナプラ
サブラガムワ地区にある宝石の町を意味するラトゥナプラは、2000年以上の採掘の歴史を有しています。
首都コロンボから南東に直線で70 km、車では120~130kmに位置しています。
② パルマドゥッラ
同じくサブラガムワ地区にあるパルマドゥッラはラトゥナプラに隣接し、ラトゥナプラから約10km南東に位置します。
③ オッカンペディア
約15年前から採掘が始まった新しい宝石産地として注目された新しい鉱区です。首都コロンボから真東に直線で150km、車で250kmのモナラガマ地区の中に位置しています。
④ カタラガマ
2011年、道路工事中、舗装に使用する土砂をトラックから降ろした時に10ct~20ctの良質のブルーサファイアがその土砂の中から発掘され、一躍、大注目を集めた鉱区です。
位置は、首都コロンボから南東直線距離で170km、車では300kmのオッカンペディアと同じモナラガラ地区に位置しています。ここはヤーラ国立公園に隣接し、美しい孔雀、猿の群れ、時に象と出会う風光明美なところです。
3、4鉱区のスリランカ原産地状況
① ラトゥナプラ
美しい田園風景が広がる平地にところどころに小さな鉱山が見られます。
採掘方法は、重機使用をこの地区は禁止されていることから、昔ながらのピット法(縦穴掘り)と標砂鉱床特有の川の中での採掘の2通りです。
鉱山は、少人数でとても小さな鉱山がおよそ3000か所、政府公認のマイニング・ライセンを有するオーナー数は1200名前後です。
② パルマドゥッラ
ラトゥナプラと同じ、高原にあるパルマドゥッラは、幹線道路からわき道に入ると、起伏のある小道が4方に分かれる田舎道となります。
そのところどころに住居が立ち、鉱山は、その住居の合間に点在します。中には、住居のすぐ隣が鉱山で採掘していました。
採掘法は、ラトゥナプラと同じく重機を使わず、ピット法です。
鉱山は、少人数の小さな鉱山で、およそ300ヶ所有ります。政府公認のマイニングライセンスを有するオーナー数は、およそ300名です。
③ オッカンペディア
草や丈の低い木々が生い茂る草原の中に手動による採掘、又は重機を使って表層の砂礫層を取り除き宝石を含有するイラム層を探しながら採掘を進めています。
鉱山数は50~60か所、政府公認のマイニングライセンス取得者のオーナー数は③
今まで、宝石採掘の歴史がなかった地区の為にラトゥナプラの宝石業者が入り込み、現地の方と共同でマイニングライセンスを取得し、採掘されています。
④ カタラガマ
広々とした低い木々が生い茂る原野の中に草木を掻き分け、道なき道を進むとところどころに小さな鉱山が点在しています。鉱山数は10~20か所ほどです。
はじめに10~20ctの良質なブルーサファイアが発見されたことから、政府公認のマイニングライセンスの公募は注目を集め、採掘には経験豊富なラトゥナプラの宝石業者がその多くを取得しました。鉱山数は50か所程度です。
その後、大粒のブルーサファイアは残念ながら出現していません。現地の方々による小さな鉱山からは小粒のサイズがとれています。
カタラガマの原石の特筆は、他の三つの鉱山の標砂鉱床の丸味を帯びたさざれ石ではなく、明瞭な結晶面をもつ、六方晶系の外形を示す、結晶系原石です。周辺では広域変生岩の成因を示す、層状模様の岩石が散在していました。
4、スリランカ産ブルーサファイアのインクルージョン観察
スリランカ産ブルーサファイアのインクルージョン観察は、既に多くの研究者によって詳細に報告がなされています。
今回は4つの鉱区ごとにインクルージョン観察を試みました。
ご存知の通り、スリランカ産ブルーサファイアのインクルージョンは、シルクインクルージョン・フィンガープリントインクルージョン・ネガティブクリスタル・ジルコン・スピネル・アパタイト・雲母・長石等が観察されますが、4つの鉱区それぞれに各インクルージョンが確認されました。
5、原石ならびにインクルージョンの観察結果報告
① ラトゥナプラ
原石は、標砂鉱床特有の丸味を帯びたさざれ石状態の原石がほとんどです。
・シルクインクルージョン
・フィンガープリントインクルージョン
・ネガティブクリスタル
② パルマドゥッラ
ラトゥナプラと隣接しているパルマドゥッラの原石は、同じく丸味を帯びたさざれ石状態の原石がほとんどです。
・シルクインクルージョン
・フィンガープリントインクルージョン
・ネガティブクリスタル
③ オッカンペディア
標砂鉱特有の丸味を帯びた原石の中に、ほんのわずか結晶面を見せる原石が見つかりました。
・シルクインクルージョン
・フィンガープリントインクルージョン
・ネガティブクリスタル
④ カタラガマ
スリランカを代表する宝石産地ラトゥナプラはあまりにも有名でスリランカ産サファイアは標砂鉱床による丸味を帯びた原石であると伝わっていますが、
今回のカタラガマ原産地調査をしたところ、原石はすべて六方晶系を示す、結晶系原石でした。スリランカ産サファイアの第一次鉱床の産地であることが推測されます。専門家による地質調査が待たれます。
・シルクインクルージョン
・フィンガープリントインクルージョン
・ネガティブクリスタル